原理:ライトシート顕微鏡(Light sheet microscopy)は、薄い平面光(ライトシート)を試料に導入し、この光で励起された蛍光を直交方向のカメラで検出することに基づいています。この技術のキーポイントは、一度に一つの光平面のみを照明することで、背景ノイズを大幅に減少させ、試料の3Dボリュームを高解像度で迅速に取得することです。
Photo by Jan Krieger, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=22333698
構造: ライトシートを生成するためのレーザーやLED。光学系: 光を細いシート状に広げるためのレンズ。試料を配置する液体中のチャンバー。検出カメラ: 直交する方向から蛍光を検出する高感度のカメラ。 3Dイメージングのための試料の位置や焦点を調整するための装置。
低光毒性:ライトシート顕微鏡は、照明の強度が低いため、試料への光による損傷やストレスが少ない。これは、長時間のライブセルイメージングに特に有利です。
高速:多くのライトシート顕微鏡は、高速な3Dイメージングが可能であり、生体内の動的な過程をリアルタイムで観察することができます。
高解像度: 背景ノイズの低減による高いコントラスト。
深部イメージング:この技術は、比較的深い部位の試料を効率的に観察することができるため、組織や発生初期の生物の観察に適しています。
ライトシート顕微鏡は、生きた細胞や組織、発生初期の生物の3Dイメージング、神経科学: ニューロンの接続や活動の3Dマッピング、薬理学: 薬物の生物試料への影響を時系列で観察、細胞動態: 細胞の動きや相互作用を実時間で観察する際に非常に有用です。また、ライトシート顕微鏡を組織病理診断の凍結病理標本に用いた例も2022年には示されている。
今日では、光学システムの構築に関する予備知識のない科学者が独自のライトシート顕微鏡が構築できるように、Web上にOpenSPIMという名前で情報公開されています。シート顕微鏡に興味がある方は、OpenSPIMを参照されたらよいと思います。
シート顕微鏡の課題:
通常の顕微鏡は、観察光学系と照明系が同軸上にあるが、ライトシート顕微鏡の観察光学系と照明系は90度の配置の場合が多い為、標本への照明光学系と試料の配置や焦点合わせが繊細であり、経験が必要な場合がある。
一部の装置では、通常の顕微鏡や共焦点顕微鏡に比べて、大きな試料のイメージングが難しい場合がある。
専用の光学機器やカメラが必要で、導入コストが高い場合がある。
ライトシート顕微鏡の発明によって、特に生物学的試料の3Dイメージング分野を革命的な進歩をもたらしましたが、その利用には一定の技術的なハードルやコストの問題が伴います。
参考資料
Huisken J, Swoger J, Del Bene F, Wittbrodt J, Stelzer EH. "Optical sectioning deep inside live embryos by selective plane illumination microscopy." Science. 2004;305(5686):1007-9.
この論文は、SPIM技術の導入とその初期のアプリケーションに関するもので、ライトシート顕微鏡の基本的な原理や利点が詳細に説明されています。
Power RM, Huisken J. "A guide to light-sheet fluorescence microscopy for multiscale imaging." Nature Methods. 2017;14(4):360-373.
この論文はライトシート顕微鏡技術の原理、アプリケーション、そして変種に関する詳細なガイドを提供しています。
Reynaud EG, Kržič U, Greger K, Stelzer EH. "Light sheet-based fluorescence microscopy: more dimensions, more photons, and less photodamage." HFSP Journal. 2008;2(5):266-275.
このレビューは、ライトシート顕微鏡が提供する利点、特に多次元イメージングと低光毒性に焦点を当てています。
Girkin JM, Carvalho MT. "The light-sheet microscopy revolution." Journal of Optics. 2018;20(5):053002.
ライトシート顕微鏡の歴史的な発展や現代におけるその応用に関する概観を提供しています。
Patel, Kripa B., et al. "High-speed light-sheet microscopy for the in-situ acquisition of volumetric histological images of living tissue." Nature Biomedical Engineering 6.5 (2022): 569-583.
ライトシート顕微鏡を組織病理診断の凍結病理標本に用いた例が示されている。
OpenSPIMのホームページ
Light sheet fluorescence microscopy
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