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執筆者の写真Yoshi Kawano

多光子顕微鏡(multiphoton microscope)とは

更新日:2023年10月2日


広視野、2PE、および共焦点顕微鏡no点状光源の強度分布
広視野、2PE、および共焦点顕微鏡によって画像化された点状光源の計算された強度分布

マルチフォトン顕微鏡(MPM)は、非線形光学を利用した顕微鏡の一つです。この顕微鏡では、複数のフォトンがほぼ同時に試料に吸収されることで蛍光を発生させるという原理を利用しています。


Photo by:

Multi-photon excitation microscopy. BioMedical Engineering OnLine, 2006, 5:36.

DOI:10.1186/1475-925X-5-36.


従来の蛍光顕微鏡は、一つのフォトンを使用して蛍光を励起します。対照的に、MPMでは、2つまたはそれ以上の赤外線フォトンが同時に試料に到達すると、それらのエネルギーが合成され、蛍光分子を励起するのに十分なエネルギーが生じるという原理に基づいています。MPMは、生体組織内の深い部分を高い解像度で非侵襲的にイメージングする技術として近年注目を集めています。


どのような利点があるのか?


深いペネトレーション: MPMは、一般的な単一光子顕微鏡技術と比べて、生体組織内での深いペネトレーションを実現します。これにより、数百マイクロメートルの深さまでの生体サンプルを詳細に観察することが可能です。


低光障害: マルチフォトン励起は、励起光の強度が非常に高い特定の点でのみ発生するため、サンプルへの光誘発の損傷や光漂白が低減します。


高い3D解像度: MPMは、励起が局所的であるため、非常に高い光軸方向の解像度を持っています。これにより、3Dの生体構造を詳細に観察することができます。


赤外線励起: MPMは、赤外線(IR)または近赤外線(NIR)で励起することが多いので、生体組織の光透過性が高い波長を利用することができます。これにより、生体組織内部でのイメージングが向上します。


非線形光学効果: マルチフォトン励起は非線形光学的なプロセスであるため、特定の波長での高い光強度が必要です。この非線形性は、高い時間解像度や特異性を持つイメージングを可能にします。


背景の低減: 励起が高い光強度でのみ発生するため、背景のフルオレッセンスが大幅に低減し、コントラストが高まります。


どのような応用があるのか?


生体イメージング:生きている組織や細胞のイメージングに適しています。特に、神経活動の視覚化やタンパク質の動きなどの研究に用いられます。

深部イメージング:通常の蛍光顕微鏡よりも深い領域まで観察することができるので、厚い試料や生体組織の深部のイメージングに有用です。

マルチフォトン顕微鏡は、その特有の利点から生命科学の研究分野で非常に価値が認められています。特に生きた細胞や組織の動的な挙動の観察には適しています。


マルチフォトン顕微鏡は、前記の特徴により、神経科学、生物学、医学など、多くの分野での細胞や組織の動的な挙動や相互作用の研究に非常に有用です。

以下に、そのメリットとデメリットを説明します。


メリット:


深部イメージング: MPMは、深い組織内部での高解像度イメージングが可能です。これは、多光子吸収が高いピーク強度のレーザーパルス内でのみ発生するため、背景光の影響を受けずに深部まで光を浸透させることができるからです。

低い光毒性と光損傷: MPMは、近赤外光を使用するため、生物試料に対する光毒性や光損傷が低減します。これにより、長時間のライブイメージングが可能になります。

高い背景除去: 多光子吸収の特性により、試料の特定の位置だけで蛍光が発生するため、背景ノイズが少ない明瞭なイメージを得ることができます。

光の散乱が少ない: 近赤外の波長を使用するため、組織内の光の散乱が少なくなります。

デメリット:


高価: MPMのシステムは、特別なレーザー源や検出器を必要とするため、初期投資や維持コストが高い場合があります。

複雑なセットアップ: 一般的な蛍光顕微鏡に比べて、MPMのセットアップや調整が複雑であり、専門的な知識が必要となる場合があります。

サンプルの制限: 特定の蛍光物質や色素が多光子吸収に適しているわけではないため、試料の選択に制限が生じる可能性があります。

低い光効率: 単一光子蛍光顕微鏡に比べて、多光子蛍光の効率は低いため、高強度のレーザー光源が必要となります。

総合的に見ると、MPMは特に生体組織の深部イメージングに適していますが、導入や運用には特定の考慮事項や制約が伴います。


参考資料


Zipfel WR, Williams RM, Webb WW. "Nonlinear magic: multiphoton microscopy in the biosciences." Nature Biotechnology. 2003;21(11):1369–1377.


この論文は、マルチフォトン顕微鏡の基礎的な原理とその生物学的・医学的な応用に焦点を当てています。

Helmchen F, Denk W. "Deep tissue two-photon microscopy." Nature Methods. 2005;2(12):932–940.


この論文は、2光子顕微鏡が深い組織内部での高解像度イメージングをどのように可能にしているかについての詳細な解説を提供しています。

Diaspro A, Sheppard CJR. "Two-Photon Excitation Fluorescence Microscopy." Encyclopedia of Life Sciences. 2008.


この論文は、2光子興奮顕微鏡の基礎とその技術的進歩について詳しく説明しています。

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