Structured Illumination Microscopy(SIM:構造化照明顕微鏡法)は、顕微鏡の分解能を向上させるための超解像技術の一つです。通常の顕微鏡技術では、光の波動性に起因する拡散により、分子や細胞の細部を詳細に観察することが困難です。この拡散の限界をアボゲードロの限界とも呼ばれるもので、多くの顕微鏡での観察ではこの限界に従っています。通常の顕微鏡は、波長に固有の限界分解能に制約されていますが、SIMでは特別な光学的手法を使ってこの限界を超えることが可能です。
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具体的には、SIMでは、サンプルに格子状の照明パターン(または「構造化照明」とも呼ばれる)を当てることで、高周波の情報を低周波の領域に押し出します。この操作により、従来捉えることが難しかった微細な詳細の情報を検出できるようになります。この構造化された光と試料の相互作用により、微細な詳細が変調され、これにより通常の顕微鏡では捉えることができない高周波の情報が低周波の情報に変換されます。その後、複数の異なる照明パターンを用いて得られた画像を組み合わせることで、超解像画像が再構築されます。この技術により、通常の光顕微鏡の2倍以上の分解能を持つ画像を得ることが可能となり、生体サンプルや細胞内の構造を非常に高い分解能で観察することができます。
SIMは、細胞生物学や分子生物学の研究で非常に価値のあるツールとして用いられています。SIMの利点として、生物学的試料などの蛍光標本の3Dイメージングに適している点が挙げられます。さらに、非常に高い分解能を生きた細胞や組織において、比較的短い時間で取得することができるのも大きな特徴です。
市販の OMX-SIM システム(DeltaVision OMX SR、GE)に油浸対物レンズ(オリンパス、×60 1.4 開口数(NA))を使用した顕微鏡と市販の N-SIM システム(ニコン)油浸対物レンズ (CFI アポクロマート、×100 1.49 NA)を使用した顕微鏡で評価されたオープンソースのOpen-3DSIMなども報告されています。
しかしながら、SIMには制約や課題もあります。例えば、画像の再構築には複雑な計算が必要であり、サンプルの調製や照明条件の調整が繊細である点、また、得られる画像の品質がこれらの条件に大きく依存する点などが挙げられます。
それにもかかわらず、SIMは近年、細胞の構造や機能を高い分解能で観察するための有望なツールとして注目されています。特に生命科学の分野において、その革新的なポテンシャルが活かされているのが現状です。
メリット:
生物サンプルに対しても適用可能で、毒性が低い。
3Dイメージングも可能。
色々な色の蛍光物質で複数色のイメージングが可能。
デメリット:
超解像顕微鏡の中では、解像度の向上率が比較的低い(通常の光学顕微鏡の約2倍まで)。
サンプルの移動や変動に対して敏感。
高い計算処理が必要。
近年、SIMの技術は進化し続けており、多様な応用や新たな改良版が提案されています。生物学や医学の分野におけるセルや組織の観察に特に有用であり、微細な構造やタンパク質の相互作用を高解像度で視覚化するのに役立っています。
参考情報:
Gustafsson, M. G. (2000). Surpassing the lateral resolution limit by a factor of two using structured illumination microscopy. Journal of microscopy, 198(2), 82-87.
SIMの原理を提案した初期の論文の一つ。
Cao, R., Li, Y., Chen, X. et al. Open-3DSIM: an open-source three-dimensional structured illumination microscopy reconstruction platform. Nat Methods 20, 1183–1186 (2023).
Open-3DSIMは、オープンソースの3D-SIMの再構成アルゴリズムとして知られています
レビュー論文:
Schermelleh, L., Heintzmann, R., & Leonhardt, H. (2010). A guide to super-resolution fluorescence microscopy. The Journal of cell biology, 190(2), 165-175.
超解像顕微鏡技術全体の概要を提供するレビューで、SIMも詳しく取り上げられています。
Rego, E. H., Shao, L., Macklin, J. J., Winoto, L., Johansson, G. A., Kamps-Hughes, N., ... & Gustafsson, M. G. (2012). Nonlinear structured-illumination microscopy with a photoswitchable protein reveals cellular structures at 50-nm resolution. Proceedings of the National Academy of Sciences, 109(3), E135-E143.
非線形SIM技術に関する詳細な情報を提供するレビュー。
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